西洋のキャラコ自給への道

公開日: : 最終更新日:2014/08/26 インド織物の歴史 , ,

18世紀頃にインドから西洋に輸出されていたキャラコは、

  1. 色落ちしにくい綿織物(当時、英国に無かった技術)
  2. インド的なエキゾチックさを持ちつつも西洋のテイストに合わせられている
  3. 当時の女性にとって極めて薄く軽い
  4. 高級品から安価なものまで多様

と極めて多くのメリットがあり、上流階級の女性を中心に空前のブームとなっていました。英国は、このキャラコを自給する事を目指していくのですが、どのような過程を経て自給を達成したのでしょうか。

三角貿易における織物

キャラコを自給する前は、専らインドから織物を輸入していましたが、それらを全て英国で消費していたわけではなく、18世紀においては西アフリカやアメリカ本土へ再輸出する、いわゆる太平洋三角貿易が行われていました。

三角貿易においては、インド製のキャラコだけでなく、毛織物や後述するファスチアン、リネンなどが輸出されましたが、やがて輸出量が減少していきます。

代替財としてのファスチアン、リネン

キャラコ自給の前史として取り上げられるのがファスチアンリネンリンネル)です。どちらも縦糸に麻、横糸に綿を交織したという点では共通しますが、ファスチアンは「厚くて重く、暗い色に染められる事が多い」織物で、リネンは「薄くて軽く、鮮やかな色に染められる事が多い」織物であると説明しており、前者はどちらかというと毛織物の代替財、後者は綿織物の代替財と位置づけられます。

毛織物とファスチアン輸出の後退

三角貿易では英国産毛織物・ファスチアン・リネンとインド産キャラコが輸出されるわけですが、18世紀半ば頃までに毛織物とファスチアンの輸出は後退しています。というのも、そもそも毛織物の輸出が多かったのは英国の毛織物業者の圧力が強かったからですが、西アフリカにおいては手軽に洗濯出来るキャラコの方が好まれたからです。西アフリカには土着の綿業もあり、綿織物に対する抵抗が少なかった事も背景にあります。

その上、王立アフリカ会社の独占が崩壊する事による貿易自由化によって毛織物輸出の優位性が崩れ、需要に見合った輸出量ではなかった毛織物の輸出が後退していきます。同様に、毛織物の代替財であるファスチアンも最初は積極的に輸出されましたが、需要が無く、やがて輸出が急減していきます。

英国産リネンと東インド産キャラコの輸出増加

需要が小さかった毛織物とファスチアンの輸出量が減少したのに対し、西アフリカで需要が多かったリネンとキャラコの輸出量が増えていきます。

東インド製キャラコ単体で見れば、あまりに東インド製のキャラコが英国で人気が出すぎて地元も毛織物業や絹織物業を圧迫している事を理由にキャラコの輸入・製造・販売が禁止された事も背景にあります。当時のキャラコ禁止法では、国内市場へキャラコを流通させる事が禁止されていただけで、再輸出を目的として一度英国に陸揚げする事は禁じられていなかったので、再輸出品として利用されたのです。

また、キャラコに代わってリネン生産の奨励法と輸出奨励金が出された事もリネン生産と輸出を後押しする要因となりました。リネンは一部に綿糸が使われていましたが、麻との混合布であったために、地元の産業を必ずしも圧迫していないという理由でキャラコ禁止法の対象品からは除外されました。

産業革命による綿業の躍進

キャラコ禁止法の中で英国産のリネンや、同時にキャラコ禁止法の対象外となっていた東インド製「白地」キャラコが英国で流通していました。英国の毛織物業者の不満は募っていましたが、ファッション文化が重量衣料から軽量衣料へ移行しつつあり、その流れは止まりませんでした。

やがてキャラコ禁止法も緩和され、産業革命の流れの中で安価でキャラコを生産出来るようになり、リネン業から綿業へのシフトが進んでいきます。

長い時間をかけて英国はキャラコを自給出来るようになったわけですが、それだけインドのキャラコの質は高く、それに比するものを生産したかったという裏付けにもなるでしょう。

pracyaの手紡ぎ手織物カーディーのインドストールも宜しくお願い致します。

参考文献
竹田泉(2013)『麻と綿が紡ぐイギリス産業革命』ミネルヴァ書房

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