クマーラスワーミーとガンディーの影響

クマーラスワーミーとアーツ・アンド・クラフツ運動

モリスの思想の影響を受けたクマーラスワーミー(1877-1947)はアーツ・アンド・クラフツ運動に参加しました。セイロン人と英国人のハーフであるクマーラスワーミーは、仕事でセイロンで地質調査を行った帰りにインドに滞在し、その経験などを元に『中世シンハラ芸術』(1908)という著作を残しています。

1906~1910年にはロンドンのチッピング・カムデンに住み、その頃チッピング・カムデンでアーツ・アンド・クラフツ運動を行っていたチャールズ・アシュビー(1863-1942)に協力しています。アシュビーは、手工芸のギルドと学校をつくり、質素な共同生活によるユートピア建設を目指しており、クマーラスワーミーはギルドの出版物印刷を受注していました。

クマーラスワーミーとスワデーシー運動

クマーラスワーミーは1909~1913年の間にインドに頻繁に滞在し、当時ベンガル地方で影響力があったナショナリストグループとスワデーシー運動に関わりました。

スワデーシー運動は、英国の機械製品がインド手工業を廃業に追いやっている事への抵抗運動で「国産品奨励運動」を意味し、英国製品のボイコットやインド国産品使用を行うものです。

しかし、スワデーシー運動は「経済的独立」を重視するもので、インド手工芸の技術や美術的価値を軽視するものであったので、やがてクマーラスワーミーはスワデーシー運動から離れていきました。クマーラスワーミーの思想は、インド製の布の復興には「美」が重要であり、政治的手段だけに留まらず、宗教的にも芸術的にも重要なものでなくてはならないと考えていたのでした。

ガンディーとスワデーシー運動

一方でマハトマ・ガンディー(1869-1948)は、スワデーシー運動を戦略的に用いて成功した事で有名です。ガンディーは、植民地支配に対する抵抗及びインド民族統一の手段として、インド製の手紡ぎ手織物カーディーを政治的・経済的・記号的象徴として用い、農村の産業復興と経済的自立を目指しました。

手紡ぎをしているガンディーの写真はあまりに有名ですが、こうしたカーディーを独立運動の象徴として用いる戦略は成功し、今でもカーディーはインドの伝統的手工芸の代名詞として残っています。

一方でガンディーの思想の肝は「誰でも生産者となって自律的に経済活動を行う」事だったので、非熟練工の不可触賤民でも生産出来るような工程の単純化・機械化を進め、伝統技術が失われ、質の低下にも繋がったという事にも留意が必要です。

美と経済的自立の両立を目指した独立後のインド織物行政

クマーラスワーミーはインド織物の美術的価値を重視する一方で経済的な側面をあまり考慮しない理想主義的・牧歌的・ロマン主義的な思想を持っていた一方で、ガンディーは経済的自立を優先するあまり美術的側面を軽視していました。

独立後のインドは、織物業育成を目指しつつも、手工芸を美的対象として生産者を文化の担い手と捉えるという、クマーラスワーミーとガンディーの思想の両方を継承する行政方針となっています。

具体的には、織物省の中に手工芸開発長官を位置づけて手工芸開発を行っています。関係する政府組織は主に2つあり、一つはカーディー村落産業委員会(KVIC)というガンディーの思想を継承した小規模産業の復興を行う政府組織があります。また、クマーラスワーミーの思想を継承した手工芸育成の為の全インド手工芸委員会(AHB)もあります。スワデーシー運動に負の面はあるものの、基本的にカーディーとガンディーはインド人の共感を呼んでいます。

クマーラスワーミーの職人論

pracyaではクマーラスワーミーやガンディーなど歴史的文脈を多く持つ手紡ぎ手織物カーディーのインドストールを販売しています。

参考文献
金谷美和(2007)「布がつくる社会関係――インド絞り染め布とムスリム職人の民族誌――」思文閣出版

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