英国の植民地支配はインド織物産業を崩壊させたのか

公開日: : 最終更新日:2014/08/26 インド織物の歴史 , , ,

インド織物の歴史:(6)イギリスの産業革命と圧政の影響でも述べたように、従来、英国の植民地支配によってインド織物産業が壊滅的な打撃を受けたというのが定説で、その結果が英国への抵抗運動としてのスワデーシー運動であるという見方が主流です。

勿論、スワデーシー運動が国民的運動になったという事は、それだけ産業革命以降に英国から入ってきた綿織物によって悪影響を被ったインド手工芸者が存在するのは間違いありません。

しかし、「壊滅的な打撃かどうか」という観点で見れば、多くの反論も存在します。今回は、イギリスによる植民地政策がインド織物業にもたらした影響について、「植民地悪玉論」に反対する立場の論拠を紹介します。

輸入品と競合した製品は高級品のみ

インドではカースト制度の影響で、消費者の階層によって着る衣料品が異なり、一口にインド織物と言っても階層によって選ばれるものは品質・デザインは異なります。

実際、イギリスから輸入されてきた綿織物の多くは高級品に類するものであり、競合していたインド産織物は、都市部の中上流階層の男性が着ていた細布のドーティ(腰布)であり、農村地域に住んでいた多くの品高階級は太糸を利用したインド産の粗布を使っていたのです。

南インドの手織業の存続

また、高級織物の中でも儀式用のタンジョールなどの生産を行っていた南インドの織物業は、イギリス製品との競争に負けずに生き延び続けました。

その上、カースト制度の影響が残ると言っても、時代とともに衣服習慣は変わってきており、

  • 女性がサリーの下にブラウスを着る習慣の普及
  • バラモンだけであった絹と綿の混合織物を着る習慣の上流階層への広がり
  • 不可触民の衣服制限の崩壊
  • 結婚式におけるレーヨン衣服を着る習慣の普及

等の変化によって、様々な需要が生まれ、それに対応した手織業が発達したという背景もあります。

植民地時代に織機数は増加

また、そもそも論として辛島(1994)が言うように、19世紀から20世紀にかけてのイギリス植民地の時代においてインドにおける手工業織布の為の織機数が増加しており、「植民地政策がインド織物業を崩壊させた」という従来の見方には大きな疑義がある点も見過ごせません。

織物職人のシフト

英国からの高級織物の流入によって競争に負けたインドの高級織物職人が多数生まれるわけですが、そのまま失職したわけではなく、多くは前述した「輸入品と競合しにくく、新たな需要が生まれていた下層階級向けの織物」の生産にシフトしました。

そうすると下層階級向けの織物の供給が増えるので、結果として低価格製品の価格が下落しました。その結果困窮する手織工が増え、それがスワデーシー運動を支持する基盤となったと言われます。

要するに、「イギリス製品が高級インド製品市場を破壊し、間接的に低価格インド製品市場に悪影響を与えた」という見方が出来るわけです。高級織物市場は当時のインドの中でも一部に過ぎないので、英国製品の直接的な影響は軽微と考えるのが妥当ですが、間接的な影響も含めて英国が悪いのかと考えれば、解釈の問題としか言いようが無いです。とは言え、当事者(元から下層階級向けに織物を製作していた織工)にとっては英国に仕事を奪われたと解釈するのは当然と言えば当然なので、スワデーシー運動を支持するきっかけになったという事実は同じです。

近年は伝統工芸としてのインド織物産業の復興が測られており、その取組みの一つにpracyaの手紡ぎ手織物カーディーのインドストールがあります。

参考文献

辛島昇編(1994)『ドラヴィダの世界 (インド入門Ⅱ)』東京大学出版会

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