複雑系模様と幾何学模様の混在

一口に織物のデザインと言っても、着物に見られるような「空間を重視し複雑に模様を配置したデザイン」から、ペルシャ絨毯に見られるような「空間を排し幾何学模様を敷き詰めたデザイン」まで千差万別です。宗教的には大雑把に見れば、バラモン教・仏教・ヒンドゥー教が多い東洋と、イスラム教・キリスト教が多い西洋の違いと言っても良いでしょう。

一方で、地理的に西洋と東洋の凡そ中間に位置するインドの織物を見れば、西洋的な幾何学模様もあれば、東洋的な複雑な模様もあります。興味深い事に、図のように両方が混在した模様も存在します。図のインドストールは、周辺には小さなペイズリー模様を幾何学的に配置しつつも、中央部分は大きなペイズリーとそこから伸びる草花があるものの、その配置は幾何学模様とはいえない複雑な配置になっており、白地の空間も多く見られます。

複雑系模様と幾何学模様

幾何学模様

「幾何学模様の配置による空間の排除」を特徴とするデザインは、ルーツを共通するキリスト教・イスラム教・ユダヤ教圏で多く見られ、ヨーロッパやペルシャ地域で多く見られます。特にイスラム教圏では、より顕著に「空間を排除する傾向」が見られます。これは空間忌避への意志という解釈が多く見られます。キリスト教やイスラム教圏では「人間の意志(模様)によって布の隅々までを制圧する」という思想です。唯一神を絶対視する宗教であるからこそ、逆にその反動として人間の意志は重要になりますし、特にイスラム教では偶像崇拝が禁じられているが故、アジア等に多い花卉や動物なども含めて直接的な描写が少なく、幾何学模様が優勢になったと考えられています。

複雑系模様

一方で「空間を重視した複雑な模様配置」は仏教圏などで多く見られます。一見すると無秩序な配置でも全体としては均整がとれている複雑系の様相を示している事が多く、ここでは複雑系模様と呼びましょう。これは「実体性の欠如」や「中空」、「0(ゼロ)」などを意味する仏教における空(くう)の精神に繋がると考えられます。この概念がインドで誕生し、各仏教やヒンドゥー教などに影響を与えています。西洋圏で空間が忌避される傾向があるのに対し、東洋では「空間こそが物事の始まり」という概念があり重要視される点で対照的です。

幾何学と複雑系の共存

図で示したような幾何学模様と複雑系模様の共存が頻繁に見られるインド織物は、地理的に西洋と東洋の中間である事もあり、様々な宗教の影響を多く受けていると思われます。現在のインドはヒンドゥー教が極めて優勢ですが、仏教が生まれた地であり古来は仏教美術が栄えていましたし、ムガル帝国などイスラム王朝の庇護によってペルシャ文化などが多く流入した時期もありました。思想が根本的に異なる宗教が異なる時代に流入し、それらをうまく既存の文化と融合させながら発達してきた事ことが、インド織物の最大の特徴と言えるでしょう。

本稿で紹介した複雑系配置と幾何学模様が混在したpracyaの手紡ぎ手織物カーディーのインドストールはこちらで販売しています。

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