更紗のエートス

公開日: : 最終更新日:2014/08/26 デザイン・文様 , , ,

更紗の一般的な意味

更紗」(さらさ)は一般的には、

主に木綿地に、人物・花・鳥獣などの模様を多色で染め出したもの。室町時代末にインドやジャワなどから舶載され、日本でも生産した。直接染料で模様を描いた描(か)き更紗や、型を用いて捺染(なっせん)したものなどがある。16世紀末のインドで極上多彩の木綿布をsarasoまたsarassesと呼んだところからの名という。印花布。花布。(goo辞書

のように定義付けられる事が多いですが、上記の定義に見られるように更紗には多様な地域で多様な技法によって多様な模様が作られており、「これこそが更紗である」厳密に定義する事は難しいです。。

しかし、更紗と呼ばれるものを見ると、我々は「これは更紗である」と判断出来る事が多いでしょう。つまり、我々は「更紗であるもの」と「更紗でないもの」を直感的に見分ける何らかの術を持っているはずなのです。この直感的に他物と区別を付けられる要素を「エートス」と呼びますが、では、更紗が持つエートスとは何でしょうか。

更紗に共通する要素

佐藤(1986)は、インド更紗とジャワ更紗の模様と構成から読み取れる共通点を抽出する事で、「更紗とはどのようなものであるか」を帰納的に導き出す事を試みています。

宗教由来の呪術的要素

模様が持つ呪術的要素でも解説したように、インド・ジャワ地域は多様な宗教が影響しており、「事物に対する畏怖」を根源として、頼りにするものを模様として表すという意味で、更紗の特徴の一つとして「宗教観が見られる模様」が存在するという点が挙げられます。

ペイズリー模様を始めとして、更紗を彷彿させる模様は多く、その独特の模様が西洋での評価にも繋がっています。

整調の構成法

筆者は複雑系模様と幾何学模様の混在で論じたように、インド織物は西洋的な幾何学模様と東洋的な複雑系模様が混在する余地がある事を特色として提示しましたが、佐藤(1986)は寧ろ幾何学模様に更紗のエートスがあると主張しています。

佐藤(1986)は、「一つの単位を規則正しく連続させたり、左右あるいは上下対照に展開させたりして全体を統一させる構成法」を「整調」として、この整調こそが更紗のエートスであると述べています。(筆者が言う複雑系模様は、整調の反意語である「破調」と対応します。)

整調に関しては、大隅為造も『古渡更紗』(大隅,1962)において指摘しており、更紗の文様が持つ秩序を「いろは47文字」に例え、均整・統一・調和を基礎とした「限られた表現方式」(繰り返し・入れ替え・調整・進展・総合)だけでどんなものでも表わす事が出来る点を評価しています。敢えて限定する事で表現を深くするという点では和歌や俳句にも共通する事象と言えましょう。

空間を充填する模様

同時に佐藤(1986)は、空間忌避の精神によって余白や地を埋め尽くす模様が多い事を更紗のエートスの一つと指摘しています。これも『複雑系模様と幾何学模様の混在』で述べたように空間を混在させる技法が多々見られるので、例外は多いですが、ある点では特徴を捉えていると言えるでしょう。

pracyaの手紡ぎ手織物カーディーのインドストールも宜しくお願い致します。

参考文献
[1] 佐藤百合子(1986)「インド更紗・ジャワ更紗にみる模様、構成の特色について」『研究紀要(文化学園大学)』Vol. 17, pp. 15-27
[2] 大隅為三(1962)『古渡更紗』美術出版社

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